はす花子育て通信1 テーマ「睡眠」 This article is written by Japanese only.

小児科医になって24年、母親歴11年になります。初めてのわが子の子育てで、何より悩んだのが、なかなか寝てくれないわが子の寝かしつけでした。だから、育児の学問を学ぶ上で、まず最初のテーマに選びました。当時の私が、今回の記事の内容のことを知っていたら、ぜひ実践してみたかったです。

本連載をお読みになった方、ぜひ診察室で感想や効果を教えてくださいね。

今回の内容は以下の通りです。

  • 睡眠のメカニズム
  • 理想の睡眠時間
  • なかなか寝ない子
  • 寝んトレについて
  • それでも眠れないなら

【睡眠のメカニズム】

睡眠は、一晩にノンレム睡眠とレム睡眠を一周期として繰り返されます。この周期のサイクルは新生児のうちは50分程度ですが、成人では90分程度となり、成長にともない延長していきます。そして、新生児は全睡眠時間のうち、一般的に眠りの浅いレム睡眠の閉める割合が50%と多いため、しょっちゅう眼が覚めるのです。ノンレム睡眠には、睡眠の深さに段階があるのですが、幼児期そして小児期になると、深いノンレム睡眠の出現量が多くなり、なかなか起こしても目が覚めない、深い眠りが得られます。一方、高齢になるにつれ、浅いノンレム睡眠の出現量が増加するため、不眠を訴える方が多くなるのです。一般的に、生後半年ほどたつと、日内リズムが形成され、夜間にまとまって眠れるようになるといわれています。

【理想の睡眠時間】

新生児では12時間から16時間、幼児では11時間から14時間、幼児では10時間から13時間、小学生では9時間から12時間、中学生は8時間から10時間が、清明な覚醒状態を持続的に保つために、推奨される睡眠時間といわれています。お気づきのとおり、幅がありますね。あくまで個人差があるのです。そうはいっても、睡眠前半の深いノンレム睡眠で、成長ホルモンが集中して分泌され、睡眠後半に増えるレム睡眠は記憶の定着と索引の形成に重要な役割を呈している、と書けば、わが子に理想の睡眠をと思うのは親として当然のことだろうと思います。

【なかなか寝ない子】

私はこの現象を勝手に、子どもの「背中スイッチ」と呼んで恐れていました。「あ~、やっと寝た寝た。」と授乳をすませ、抱っこしながらあやして、そお~っとベッドに寝かせると、とたんに眼がさめて子供が泣き出すのです。背中にスイッチでもついているのかな。私が抱っこしていないと、寝ないのです。

学問的には、「なかなか寝ない子」には二つの原因があるといわれています。Sleep-onset association disorder(SOAD)とLimit-setting sleep disorderの二つです。和訳が難しいので、そのまま書きましたが、日本語で解説します。

  •  Sleep-onset association disorder(SOAD);親がいないと寝ない、ミルクがないと寝ないなど、特定の状況がないと眠れない状態のことです。先にも解説した通り、生後6か月未満の子どもは、まだ日内リズムができていないので、それ以降の乳児の状況のことを主に言います。この解決策には、乳児の段階から一人で眠ることを目指す、 “寝んねトレーニング”が有効といわれています。
  •  Limit-setting sleep disorder;保護者の不適切なしつけがもとになって生じているものを指します。親が就寝時刻などについて、まったく制限時間を設けていない、気まぐれで、しつけに一貫性を欠いているといった具合です。家族がの生活リズムが重要であることは言うまでもありません。

【寝んトレについて】

ここでは寝んねトレーニングについて、具体的な方法を交えてご紹介したいと思うのですが、その説明の前に、まずは確認しておくべきことがあります。

①空腹じゃないのかな。

②オムツが濡れていないかな。

上記が理由なら、解決は簡単なはずです。

医師から、お子さんの体調において下記の指摘はないですか?

あるなら、その治療が必要です。

③何かの感染症にかかっている

④ミルクアレルギーがある

⑤胃食道逆流症がある

上記のいずれでもないのなら、さあ、寝んねトレーニングにチャレンジしてみましょう。

寝んねトレーニングとは、乳児の段階から一人で眠れるようにすることを目指すことです。その方法は、”Cry it out (泣かせたままにする)“と”No cry sleep solution(泣かせないで寝かしつける)“に分けられます。あなたはどちらを選択されますか?

●  泣かせたままにする(Cry it out)方法

眠りにつく際や中途覚醒時に泣いても、そのままにして自力で寝るようにするという考え方です。あかちゃんが起きている状態で、寝室へと連れていき、親はいったんその場を離れます。赤ちゃんが泣いたら3分まってから様子を見に行き、安心させてから、再び離れ、次は5分、10分と、最終的には30分までまつことを1週間程度つづけます。ここで大事なことは、泣いているからといって、途中で可哀そうに思って、抱き上げたりすると、この方法は失敗します。泣いても、親の気持ちをひきとめられないと気づくと、子どもはあきらめてよく眠れるようになります。

● 泣かせないで寝かしつける(No cry sleep solution)方法 

小児科医のHarvey Karp先生の論文をみつけましたので、ここでご紹介します。5つのSをキーワードとして挙げていらっしゃいます。発想の由来は、お母さんの胎内にいるかのような環境をつくるということです。

キーワードは5つのSです。

一つ目のS Swaddling 赤ちゃんをおくるみでくるんで、安心感を与えます。

二つ目のS Side/stomach position 横向きやうつぶせ寝で抱っこします。抱っこはいいですが、突然死との関連性から、うつぶせ寝のままベッドに寝かせないように注意が促されています。

三つ目のS Shushing sound 胎内で赤ちゃんが聞いていた胎盤の血流音に似た連続性の音をまねて、シューと発声します。

四つ目のS Swinging リズミカルな動きで、胎内にいたときのお母さんの呼吸に伴う横隔膜の動きに似た環境をつくりましょう。

五つ目のS Sucking いわゆるおしゃぶりで安心させます。

もし、これらの実践でも寝ないときは、寝んトレの冒頭に書きました、確認すべきこと①~⑤に立ち返りましょう。

こちらHarvey先生ご自身が解説されているYou tubeの動画を見つけましたので載せておきます。英語での説明なんですが、動画でみるだけでも雰囲気が伝わるかなと思いまして。3分程度です。よろしければご利用ください。https://youtu.be/6OtPSfyZXNw

【それでも眠れないなら】

最後、私なりに、年齢別のアドバイスをさせていただき締めくくろうと思います。

●1歳未満の場合

1歳未満の赤ちゃんの睡眠時間が短いからといって、精神運動発達への影響はなかったというデータがあります。つまり、寝ないからといって、成長発達で心配しなくといいということです。ただ、母乳栄養の児は、人工栄養の児に比べてどうしても、まとまった睡眠をとらないという傾向があるようです。一人で悩まないで、パートナーの協力を得られるといいですね。そして、昼夜かかわらず、子どもと一緒に寝て、一緒に起きる、そんな開き直りもありなのかなと、ここはあくまで私見ですが、感じます。必ず闘いの終わりは来ます。くじけそうになったら、相談してください。

●乳幼児期の場合

なかなか熟睡しないわが子に、毎日疲れ果て、鬱々した気持ちになっていた当時の私に、UNICEFやJICAの国際医療の第一線で活躍する親友が贈ってくれた絵本があります。海外では寝かしつけの際によく読まれているんだよと、いただきました。タイトルは「おやすみロジャー」。クリニックの待合室に置いておきますので、ご興味があればぜひお読みください。

●思春期の場合

塾や部活で忙しい時期ですね。睡眠不足の問題はこの時期に大きくのしかかり、生活に支障がでる子も少なくありません。学校がある日とない日で起床時刻が2時間以上ずれてないように、夕方30分以上の仮眠をとらないように、携帯電話をいじりすぎないように、気を付けましょう。睡眠時刻が後退している場合は、10分ずつでもいいから早めていけるよう、睡眠ダイアリーを付けましょう。15歳未満のお子さんでしたら、処方できる薬もありますので、ご相談ください。 

●成人の場合

眠れないことよりも、眠れないことを悩む精神状態のほうが、問題と言われています。眠れないことがストレスとなり、脳や交感神経が興奮してさらに眠れなくなりますので、眠くなってから、床にはいるようにしましょう。必要な睡眠時間は人それぞれです。体調に無理のない範囲で日中の活動を充実させるようにしましょう。

参考文献

  • 駒田洋子・井上雄一編 子どもの睡眠ガイドブック 朝倉書店
  • Krishna J, Kalra M, McQuillan ME. Sleep Disorders in Childhood. Pediatr Rev. 2023 Apr 1;44(4):189-202. doi: 10.1542/pir.2022-005521.
  • Pennestri MH, Laganière C, Bouvette-Turcot AA, Pokhvisneva I, Steiner M, Meaney MJ, Gaudreau H; Mavan Research Team. Uninterrupted Infant Sleep, Development, and Maternal Mood. Pediatrics. 2018 Dec;142(6):e20174330. doi: 10.1542/peds.2017-4330. Epub 2018 Nov 12.
  • Jasraaj K Singh, Samuel Menahem The five “S’s” and the “SNOO” Smart Sleeper-non-pharmacological interventions (NPI) to promote sleep and reduce crying of infants: a scoping review. Transl Pediatr. 2023 Aug 30;12(8):1527-1539. doi: 10.21037/tp-23-42.