今年もあと数週で終わろうとしています。私にとっては朝6時30分になんとか起床、夜23時30分に就寝するまでの労働をひたすらこなしていただけという1年でした。目の前におきる事態への対処に精一杯で、社会の動きに関心をもちながら、自分とは直接関係がなくとも学ぶべき物事とちゃんと向き合えていたか、というと、できなかったかなという反省があります。
2か月前でしょうか、子供の小学校の運動会に行ってきました。めったに学校行事に顔を出さない母親ですから、勉強よりも体育が得意な私の子供たち、そりゃもう、たいへんに躍動しておりまして(笑)。青空のもと、声を出してわらったり、ビデオカメラを向けたりする瞬間が、私の癒しの時間になりました。
さて、今回のテーマは次年度に就学を控える5歳児さんの健診についてです。先に触れた運動会のひとコマのように、小学校生活では楽しいことがいっぱい待っている就学前のお子さんたち。でも、ちゃんと勉強についていけるかな、お友達できるかな、そんな心配をされている保護者の方も少なくないと思います。今日はそんな5歳さんにむけての健診をPart 1と題して取り上げます。
今回の内容は以下の通りです。
・5歳児健診の目的
・5歳児健診の対象者
・正常な5歳児の発育・発達・行動とは
・発達障害ってなんだろう?
・5歳児健診を受ける心構え
なお、次回のPart2で、下記の項目について触れる予定です。(内容は変更の可能性あり)
・5歳児健診の申し込み方
・5歳児健診って何するの?
・5歳児健診後の相談先
・受給者証の発行について
【5歳児健診の目的】
5歳児健診は、3歳児健診では気づきにくい、しかし就学後では遅すぎる発達上の課題のある幼児に気づく場となることを目的としています。1)一般的にその課題は時にみえにくく、本人の努力不足と片づけられて苦しんでいたり、「反抗的である」、「怠けている」など周囲の誤解を受けたりする傾向があります。5歳児健診は、3歳児健診から続く途切れない発達支援の場として、周囲への早い段階での気づきをもたらし、環境の調整や対応の仕方を変えてあげる重要な機会となるのです。
【5歳児健診の対象者】
実施年度に満5歳になる幼児(標準的には、4歳6か月~5歳6か月となる幼児)です。発達について心配・気がかりがある方、保護者として心配や気がかりはとくにないのだが、通園先からの勧めがある方、療育機関に通所または専門機関受診中の方が、ご利用になれます。
【正常な5歳児の発育・発達・行動とは】2)
- 速く走って、ジャンプして、スキップしてよく遊ぶ(運動発達)
- 会話での受け答えができ、過去形を使う(言語発達)
- じゃんけんの勝ち負けがわかる、数は5まで数えられる(認知発達)
- 自分の気持ちを表現し、相手の気持ちも理解する(社会性の発達)
- ちょっと先の見通しがもてる(社会性の発達)
- 昨日の遊びの続きをし、翌日の遊びの約束をする(遊びの発達)
- 遊びの優先順位を変更する(遊びの発達)
【発達障害ってなんだろう?】3)
1960年代、不注意、衝動性、多動、運動協調の問題、情緒の不安定、対人関係の困難のような症状を認める幼児を微細脳機能障害(Minimal Brain Dysfunction)と呼ばれていました。しかし、実際には脳の器質的異常が見つからなかったこともあり、1980年代に入ると、症状をもう少し整理して、細かく診断名がつけられるようになりました。例えば、学習障害、自閉症、注意欠陥多動性障害といった具合です。しかし、こうした診断名同士の境界は大変あいまいで、例えば、注意欠陥多動性障害には不器用(微細運動の困難)や学習障害がそれぞれ45~50%、社会的コミュニケーション障害(自閉スペクトラム症)が0.4~14%が合併するといわれています。
しかし、発達障害の診断を就学前の子どもに行うのは、下記の理由から容易ではありません。
- 症状が二つ以上の環境(学校・家庭)でみられるかどうかは、幼稚園や保育園に通っていないと判断できない。
- もともと活動性が高く、注意が長続きしないのが普通の幼児で、どこまでが年齢相応なのかの判断が難しい
- 本人ができることのレベルは、家庭や保育の教育環境によって明らかに左右されるので生活に支障がでるレベルなのかの判断が難しい
- 幼児向けの尺度が限られている。
つまり、私がこの場で保護者の方に伝えたいのは、本人が5歳児として今、何に困っているか?ということを明らかにするだけで十分ということです。決して、発達障害の確定診断をする場ではないということを理解し、少しでも不安なことがあればご利用ください。
【5歳児健診を受ける心構え】
5歳児健診で仮に発達の課題を指摘されたとしても、その子どものうち95%は、通常学級に進んでいらっしゃいます。特別支援学級に進ませるためのものではありません。就学の1年前に、子供の発達課題を保護者が把握し、医療や福祉、教育と相談することによって、明るく楽しく元気よく、子どもが学校に通えるようにするためのものだという理解が大切です。1)
健診を行う医療機関は、可能なら、かかりつけの先生か、行きなれている病院がいいですね。あまり取り扱いのない病院が多いせいか、当院にはまったく初診で5歳児健診を希望される方がときどきいらっしゃいます。中には身長体重すら計測できず、終了してしまったケースもあります。こんなことをするのだよ、という保護者様からの事前説明があるとお子さんの不安が解消されていいですね。
こども家庭庁による5歳児健診の解説動画もぜひご覧ください。板橋区は集団健診ではなく、個別健診ですので(2025年12月現在)、この動画の内容がすべてあてはまるわけではありませんが、医師の診察の様子は参考になるかと思います。
参考文献
- 小枝達也 特集 みんなで取り組む5歳児健診:(1)5歳児健診 今まで, これから
チャイルドヘルス 28 (3) 166-170, 2025. - 小枝達也ら これからの5歳児健診 診断と治療社
- Meghna Rajaprakash, MSc, MD,et al. Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
Pediatr Rev (2022) 43 (3): 135–147.