当院はファミリークリニックゆえ、あらゆる年齢層の方にお越しいただいております。乳児の、留学前の、妊婦さんの、接種歴のわからない成人の、高齢者の方の、ワクチン接種について、抗体価測定について、さまざまご質問いただいく中、今回は流行の騒がれる「麻疹」感染症について、解説したいと思います。
まずは、現在の感染者の動向を下記URLよりご覧ください。本ブログ記載時は2026年6月ですが、東京…多いですね。20歳代と30歳代の割合が半数なのと、ワクチン接種歴の不明に該当する方が多い結果が気になります。
麻疹 発生動向調査 速報グラフ 2026年|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
とはいえ、私が研修医をスタートさせた2000年の小児病棟には、麻疹による合併症で小児病棟に入院する患者様も珍しくはありませんでした。麻疹を知らない世代にその恐ろしさを伝え、ワクチン接種を啓蒙していかなければならないという責任を感じます。ブログを書いていたら、なかなか盛りだくさんになりましたので結論だけでも、チェックしてください。あとは目次を見ながら、興味のあるところから読んでいただければ幸いです。
結論
★子どもたちへ 2回の麻疹定期接種は必ず受けましょう。接種期限を逃した方のためのキャッチアップ制度が存在します。詳しくは、麻しん風しん(MR)|板橋区公式ホームページ をご参照ください。
★成人の方へ 令和8年7月1日以降、一定の条件を満たす板橋区の住民は、麻疹抗体価の検査やワクチンが無料で受けられます(令和9年3月31日までの期間限定です)!板橋区からのお知らせをお待ちください。当院でお取り扱いしています。
★本ブログをご覧の皆様へ 麻疹流行対策のため、お住まいの各自治体で何等かの取り組みがあるはずです。この機会に自治体ホームページをご覧いただくことをお勧めします。
本日取り上げたい項目は下記の通りです。
- 麻疹感染症との戦いの歴史
- 麻疹感染症の特徴について
- 流行の原因
- ブレークスルー感染とは
- 私たち大人ができること
- 乳児(1歳未満)でワクチン接種をしたほうがよいか?
では、順番にまいります。
- 麻疹感染症との戦いの歴史
麻疹は人から人へのみ感染し、かつ効果的なワクチンが存在するため、根絶可能な感染症と位置づけられています。1963年に麻疹ワクチンが導入される前は、世界で最も致死的な小児感染症のひとつでした。2000年以降の世界的な取り組みにより、麻疹患者数の報告者数は激減しましたが、2016年から2019年にかけて、再び麻疹が流行しました。さきほどご紹介したグラフ上でも日本では2019年に再興していることがわかります。2020年以降は、COVID19の影響で、医療機関受診者数の減少や診断検査の遅れ、予防接種キャンペーンの遅れが生じたことで、post-honeymoon outbreak(低発生が続いた後、感受性者が蓄積し、突然大規模流行が起こる現象)が懸念されて現在に至ります。
- 麻疹感染症の特徴について
麻疹はパラミクソウィルス科に属する麻疹ウィルスが原因です。感染経路は、飛沫・接触・空気感染です。発疹は顔、体、手足の順に出現し、3~4日持続したのち、顔から消退していきます。潜伏期間は約10日から14日間で、発疹の4日前から4日後まで感染力があります。麻疹が怖い理由その①は、一人の患者が平均して12人から18人に感染させるほどの強い感染力があることです。これに比べて例えば、例年冬に流行する季節性インフルエンザウィルスは所詮、1~2人の感染力なのです。理由その②は合併症です。麻疹ウィルス感染症により、免疫抑制が引き起こされ、他の感染症にも弱くなり、脳炎や肺炎により死亡することが稀ではありません。理由その③は特効薬がないことです。出現した症状に対する対症療法を行い、回復を待つしか方法がありません。
- 流行の原因
流行の原因は二つあります。一つは、世界規模でワクチン普及率が十分でないこと。WHOは少なくとも2回の接種率を地域格差なく95%以上を目標に掲げていますが達成されていません。もう一つはワクチンによる免疫獲得には限界があることです。麻疹ワクチンは2回接種が推奨ですが、この理由として、1回接種では85%の小児が免疫を十分獲得するものの、残り15%は抗体価が十分に上がらず、2回目の接種により初めて97%に上昇することがわかっています。つまり、1回接種のみで終わらせず、2回目の接種を必ずうけることが重要です。
- ブレークスルー感染とは
2回接種を済ませても、10~15年経過すると5%の方は防御抗体を失うといわれています。日本のように、麻疹の流行が常態化しておらず、基本的に排除されているのは大変良いことなのですが、ウィルス循環が少ないため、抗体価低下の速度が加速します。このため、一度免疫を獲得した人の防御抗体が、時間が経って低下した結果、感染することをブレークスルー感染と呼びます。しかし、抗体が低下しても、免疫がゼロになるわけではなく、過去に獲得した免疫を覚えており、仮に感染しても急速に中和抗体を産生し、軽症化しやすいといわれていますので、ワクチンを接種する意義は十分にあるのです。
5.私たち大人ができること
日本は、麻疹流行国ではなく、ワクチン接種が普及していると考えられるため、ブレークスルー感染が主といえます。板橋区では今年7月以降、期間限定で抗体価検査を対象の方に無料提供することを決定しましたので、ぜひ検査を受けてください。抗体価が低ければ、ワクチンの無料接種も受けられます。ブレークスルー感染は、逆に症状だけでは軽症ゆえに診断しづらい(発疹がない、咳嗽、鼻汁、結膜炎がない、など)という問題が発生します。疑われたら、血液検査だけでは診断が難しいこともあるため、高感度の検査診断(PCR)との併用が重要です。自治体への報告が医師に義務づけられておりますので、指示に従い、早期診断にご協力いただければと思います。
- 乳児(1歳未満)でワクチン接種をしたほうがよいか?
接種できるか、できないか、でいえば、接種できます。ただし1歳未満の方は定期接種の対象外のため、自費になります。麻疹大流行の緊急事態の場合は、国が接種を前倒しにするよう動くかもしれませんが、2026年6月現時点ではそこまでとみなされていません。世界全体では、麻疹流行の危険度に応じて、生後半年から9か月の間で開始している国から、日本のように流行国でない場合は1歳で開始される国など一律ではありません。1歳以降にする理由は①お母さんの免疫が赤ちゃんに残っている時期に接種しても、十分に抗体がつかない、②赤ちゃんの免疫システムが未熟で抗体が十分作られない、この二つの可能性があると考えられているからです。しかし、実際に1歳未満の赤ちゃんに接種した報告によりますと、一般的な注射接種部位の反応、発熱、発熱などは見られましたが約10%以下であり、1歳未満で接種した場合にだけ見られる特別な有害事象はありませんでした。こうした研究検討が種々の条件をそろえたときに正しいとするならば、流行地域で感染リスクが高まっている場合は、軽度の副反応(多くは10%未満)よりも、早期接種を行い麻疹から守る利益の方が圧倒的に大きいと考えられます。ただ、こうした報告でも、ワクチンに混合されている風しんウィルスに関しては、①の現象が認められていますので、1歳未満で接種しても、通常の定期接種は2回、しっかり接種することをお勧めいたします。
The number of measles cases is currently increasing in Japan. Measles spreads through coughing and sneezing, close personal contact, or direct contact with infected nasal or throat secretions. The incubation period is about 10 to 14 days. The main symptoms are fever, rash, conjunctivitis, and cough. The diagnostic tools for measles are a blood test to identify the anti-MV-specific antibody response characteristic of an acute infection in serum and the PCR test to detect the virus genetic material in clinical specimens, like throat or nasopharyngeal swabs. Measles is a highly contagious, vaccine-preventable viral disease. Treatment is supportive therapy only because no specific drugs exist against measles. Please have your child vaccinated against measles. The measles-rubella vaccine is mandatory for children between the ages of one and two years old and between five and six years old, and they can get it for free. In addition, don’t forget to take care of yourself, too. If you have no history of measles vaccination, you should get vaccinated as soon as possible. According to the report, half of the people infected are in their 20s to 40s!
参考文献
- Fappani C, Gori M, et al. Breakthrough Infections: A Challenge towards Measles Elimination? Microorganisms. 2022 Aug 4;10(8):1567.
- Hübschen JM, Gouandjika-Vasilache I, Dina J. Measles. Lancet. 2022 Jan 28;399(10325):678-690.
- Vittrup DM, Charabi S, Jensen A, Stensballe LG. A systematic review and meta-analysis of adverse events following measles-containing vaccines in infants less than 12 months of age. Vaccine. 2025 Jan 11;47:126687.
- Sayi TS, Sharapov UM, et al. Immunogenicity and safety of a measles and rubella-containing vaccine at age 6 and 9 months in Bangladesh: an open-label, randomized trial. Lancet Child Adolesc Health. 2025 Mar 31;9(5):306-314.